世界観を感じさせるSSが好きです。
作品名までは忘れてしまいましたが、確か星真一の作品で、体制側の職に就きながら工作員だったがスパイの裏の顔のある主人公が、審問をされていてうまく切り抜けたかと思いきや最後の何気ない一言、「空が青い」に反応してしまい、打ち殺されて「空が青い訳がないだろ」というような終わり方をするSSが記憶に強く残っています。

先日本業が詩人の人の本を読んでいて以下のような超短編に出会いました。


地下鉄の改札口を出てデパートに入る。妻がつくまでに後半時間ばかりある。ケーキ、ワイン、ローストチキン。売り場は色と声と熱で溢れかえっている。
お洋服が見たい。そういう娘の手を引いてエレベーターを探す。
子供服売り場には日ごろ縁がない。若い女性向けかと見まがう陳列に目を瞠っていると、見慣れないコートを着た娘が飛びついてきた。純白のフェイクファー。
――ね。これ買って。
――駄目だよ、売り物を勝手に。それにママだって。
汚すと困るでしょう。そういう理由で、妻は娘に白い服をいっさい与えない。
――サンタさんに、プレゼントいりませんって手紙書くから。パパにもらいますって。だから。
娘の磁器めいた肌が、いっそう透き通るよに見える。
お嬢様、このままお召人っていかれますね。店員の笑顔に生返事をして、妻への言い訳を思案しながら一階へ下りた。来店直後の客が肩を払っている。雪か…。
妻の姿が見えた。
――あの子は。
娘がいない。
妻は屋外へ走り出た。雪の日は。雪の日は用心しなきゃいけなかったのに。あの子は。うろたえる妻に驚きながら、通りを見まわした。人々が雪の中から現れ、雪の中へと消えていく。



何気ない掌編ですが、なぜか胸に来るものがありました

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