苦役列車 鑑賞

2012年7月18日 趣味
苦役列車 鑑賞
粗筋

第144回芥川賞受賞小説「苦役列車」を映画化。バブル真っ只中の80年代、学歴がないため、ひねくれた目で社会を傍観しながら青春を過ごす主人公の葛藤を描く。人生で初めて友達が出来た喜びに浮かれる貫多は、正二を遊びに誘い、金を借り、女性を紹介してもらおうとする。しかし、専門学校生の正二は、学校で広い世界を知り、成長していく。取り残されたような貫多は、やり場のない憤りを不器用に正二にぶつけるのだった。

感想
素晴らしい!良い意味で裏切られた!
右上に映画ポスターの画像が見えると思うんですけど、この広告だとまるで「貫太が不器用だけど憎めない人間」みたいに受け取れますよね。そんなことはない。原作を完全に踏襲し、まるで愛すべき点のない人間としてきちんと描けている。取り敢えずこの広告のキャッチコピー作った人原作も映画も愛してないと思うのでお仕事を止めた方がいいのではないでしょうか。
原作通り貫太は「学歴のせい、性犯罪を犯した父親の所為」と回りの所為ばかりにし、挙句回りの努力や熱意に対しては「たいしたことない奴の癖に無理に上を見やがる、屑の癖に」と冷笑をし、自分の努力の道を閉ざす。まさに典型的な権威主義的パーソナリティーですね。専門学生の正二は同じ日雇い人足をしており、口では「特に夢はない」と言いながらも着実に成果を出している。それを面白くない貫太は益々いじけていく。映画オリジナル登場人物、本屋の店員桜井康子に片思いをし、コミュ障特有の意味不明な論理+テンポでアタックするも当然「友達」扱いに。正二は人足仕事で責任ある仕事を任され、彼女を作ったのが羨ましくて仕方ない貫太は八つ当たりをし、二人の関係は破綻。その勢いのまま桜井の家に押しかけるも、すげなく断られ姿を消してしまう。失意のままに日々が過ぎ、落ちぶれた貫太は居酒屋でかつての先輩であり、大怪我をして仕事を無くし「夢なんてかなう訳がない」と嘆いていた中年男性が夢である歌手への道を歩んでいることを知る。それに何かを感じた貫太は三畳間の汚い部屋で、彼がかつて目指した物書きへの道を目指すべく、原稿用紙を手に取った。で、物語は終わる。
オリキャラ桜井を元秋葉48の人が演じていましたが、特にどうでも良かったですね。予告も合わせ、当初は「貫太が不器用に成長していく青春映画なのか?原作レイプなのか?」と危惧しましたが、貫太の成長のしなさを提示するための装置としての機能しかなく、青春の煌めきやらを表現する手段ではなかったところに、制作陣の原作への理解が垣間見れます。
映画は何か感じるために見るものだと思います。楽しむために見る作品もあれば、悲しむために見るものもある。その意味でこの映画は「折に触れて感じる劣等感、気まずさ、他人への僻みと自己嫌悪」を感じるために見る映画でしょう。見ている時に思わず画面から目をそらし、耳をふさぎたくなることもあるでしょう。しかしそれは画面に写る貫太の行動が観客がかつて自分で為し、失敗して感じた負の意識と重なる部分があるからなのです。この「苦役列車」は人間の負の面を否が応でも提示する映画なので万人に愛される映画ではありません。が、清濁併せ持つために多くの人に見られるべき作品であるように感じました。

えっと要は大絶賛です。見よう。

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