「まァ、いったい、こんな塔がいつの間に建ったのかしら。」
早苗は驚きの声をあげてしまいました。
ここは東京の下町、ある晴れた日の朝のことです。お父さんが病気で入院したので、早苗はお母さんをたすけながら、稼業の牛乳配達を手伝っておりました。
その日も、いつものように朝早くから重い車を引いて牛乳を配達し、その帰り途のことです。
昨日まで空地だったその場所に、高い塔のような建物がいつの間にやらそびえているのです。それは五重塔か、伊太利にあるピサの斜塔にも似た何ともヘンテコリンな建物で有りました。赤や黄や緑の煉瓦、壁にはめこめられた貝殻の飾り物、金粉、銀粉をふりまいたガラス窓、それが朝の陽に照らされて毒々しいまでに妖しくピカピカと光り輝くのでした。
「ホッホッホ、おはよう、お譲ちゃん」
誰か声をかける者がいます。
「え!?」
早苗はびっくりして振り返りました。
「ワタシの“遊鬼塔”気に入ったか?」
中国服を着て、どじょうみたいな口髭をはやした初老の男がうしろに立っています。
「ワタシ、老博士。はるばる遠い国から日本の嬢ちゃん坊ちゃんに珍らしい見世物を観てもらうため、たくさん、いっぱい持ってきた。それ全部、この塔の中にある。」
「まァ…じゃ、この塔は見世物小屋なのですか!」
早苗はまたびっくりして聞きました。
「そうアル。本日、旗揚げ興行アル。昼からお客さん入れる。お譲ちゃんにも来てほしいネ。」
「でも家にはお金ないわ。お父さん、病気で入院してるの。」
「ホッホッホ。それ心配ナイ。初日は特別、無料興行アル。木戸銭いらないヨ。ロハね。」
「本当…?じゃあ、あたしぜひ来るわ。」
「ホッホッホ…お友だち、みんな連れてくるヨイ。」
やさしげに笑う老博士。でも、黒メガネの奥で吊りあがったその瞳はなぜか妖しく光を増すのでした。
あふれ出る乱歩臭。漫画でこんな文章を読めるのは高橋葉介先生だけ!
朝日新聞出版社の夢幻紳士【マンガ少年版】。
幻想怪奇好きは是非読んでみてね!
早苗は驚きの声をあげてしまいました。
ここは東京の下町、ある晴れた日の朝のことです。お父さんが病気で入院したので、早苗はお母さんをたすけながら、稼業の牛乳配達を手伝っておりました。
その日も、いつものように朝早くから重い車を引いて牛乳を配達し、その帰り途のことです。
昨日まで空地だったその場所に、高い塔のような建物がいつの間にやらそびえているのです。それは五重塔か、伊太利にあるピサの斜塔にも似た何ともヘンテコリンな建物で有りました。赤や黄や緑の煉瓦、壁にはめこめられた貝殻の飾り物、金粉、銀粉をふりまいたガラス窓、それが朝の陽に照らされて毒々しいまでに妖しくピカピカと光り輝くのでした。
「ホッホッホ、おはよう、お譲ちゃん」
誰か声をかける者がいます。
「え!?」
早苗はびっくりして振り返りました。
「ワタシの“遊鬼塔”気に入ったか?」
中国服を着て、どじょうみたいな口髭をはやした初老の男がうしろに立っています。
「ワタシ、老博士。はるばる遠い国から日本の嬢ちゃん坊ちゃんに珍らしい見世物を観てもらうため、たくさん、いっぱい持ってきた。それ全部、この塔の中にある。」
「まァ…じゃ、この塔は見世物小屋なのですか!」
早苗はまたびっくりして聞きました。
「そうアル。本日、旗揚げ興行アル。昼からお客さん入れる。お譲ちゃんにも来てほしいネ。」
「でも家にはお金ないわ。お父さん、病気で入院してるの。」
「ホッホッホ。それ心配ナイ。初日は特別、無料興行アル。木戸銭いらないヨ。ロハね。」
「本当…?じゃあ、あたしぜひ来るわ。」
「ホッホッホ…お友だち、みんな連れてくるヨイ。」
やさしげに笑う老博士。でも、黒メガネの奥で吊りあがったその瞳はなぜか妖しく光を増すのでした。
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